「大事な書類だから、とりあえずパスワード付きZIPファイルにして送ろう」
ビジネスシーンや日常のデータのやり取りで、このように何気なくZIPファイルにパスワードをかけている方は多いのではないでしょうか。
しかし、その「パスワード付きZIP」、実は設定されている暗号化方式によっては、専用のツールを使うことでわずか数分で破られてしまう危険性があることをご存じですか。
せっかくパスワードを設定しても、セキュリティ強度が低い方式のままでは、大切なデータを守ることはできません。
この記事では、ZIPファイルで使われる2つの暗号化方式「ZipCrypto」と「AES-256」の決定的な違いや、お使いのZIPファイルがどちらの方式で暗号化されているかを見分ける確認方法について、IT初心者の方にも分かりやすく解説します。
この記事を読むことで、安全な暗号化方式の選び方や、情報漏えいを防ぐための正しい設定手順がしっかりと理解できるようになります。
まずは結論から
パスワード付きZIPファイルの暗号化方式には、主に「ZipCrypto(ジップクリプト)」と「AES-256(エーイーエス 256)」の2種類が存在します。
それぞれの特徴と違いをシンプルにまとめると、以下のようになります。
- ZipCrypto:古い暗号化方式で、Windows標準機能で簡単に開ける(互換性が高い)反面、セキュリティ強度は非常に低く、ツールを使えば短時間で解読される危険性があります。
- AES-256:アメリカ政府も採用する最高峰の暗号化方式で、セキュリティ強度は極めて高いですが、解凍するには「7-Zip」などの対応ソフトが必要です。
セキュリティの安全性を重視するのであれば、絶対に「AES-256」を使用するべきです。
しかし、相手の環境によっては「ファイルが開けない」というトラブルが起きることもあるため、それぞれの特徴を理解して使い分けることが大切です。
それでは、詳しい仕組みや違い、確認方法について順番に解説します。
ZIPファイルの暗号化方式
そもそもZIPファイルにパスワードを設定する際、裏側ではデータを「暗号化」する処理が行われています。
この暗号化を行うための計算ルールのことを「暗号化アルゴリズム(方式)」と呼びます。
ZIPファイルで主に使われている2つの暗号化方式について、まずはそれぞれの基本的な特徴を見ていきましょう。
ZipCryptoとは
ZipCrypto(Traditional PKWARE Encryption)は、ZIP形式が誕生した初期から使われている、最も歴史のある暗号化方式です。
長い間、標準的な暗号化方式として採用されてきたため、現在普及しているほぼすべてのOS(WindowsやMacなど)や圧縮・解凍ソフトで標準対応しています。
特別なソフトをインストールしなくても、ダブルクリックしてパスワードを入力するだけで解凍できるのが最大の強みです。
しかし、その設計は非常に古く、現代の高性能なコンピューターの前ではセキュリティとしてほとんど役に立たないほど脆弱になっています。
AES-256とは
AES-256(Advanced Encryption Standard 256-bit)は、米国政府が国家機密レベルのデータを保護するために標準採用している、極めて高度な暗号化技術です。
「256ビット」という非常に長い鍵(パスワードを元に作られるデータ)を使用しており、現代のスーパーコンピューターをフル稼働させても、解読には数億年以上かかると言われています。
銀行のオンラインシステムや、軍事用の通信など、絶対に漏えいが許されない重要な場面で広く使われています。
ZIPファイルの暗号化においても、現在はこのAES-256方式が世界的な推奨基準となっています。
ZipCryptoとAES-256の決定的な違い
同じ「パスワード付きZIPファイル」であっても、ZipCryptoとAES-256では、中身の安全性も使い勝手もまったく異なります。
これら2つの方式の決定的な違いを、「セキュリティ強度」と「互換性」の2つの観点から比較してみましょう。
| 比較項目 | ZipCrypto(ジップクリプト) | AES-256(エーイーエス 256) |
|---|---|---|
| セキュリティ強度 | 非常に低い(危険) | 極めて高い(安全) |
| 解読の難易度 | 専用ツールで数分〜数時間で解読可能 | 現実的には解読不可能(数億年以上) |
| Windows標準機能での解凍 | 可能(ダブルクリックで開ける) | 不可(エラーになる、または開けない) |
| 必要となるソフト | 不要(標準機能で対応) | 7-ZipやWinRARなどの対応ソフトが必要 |
| ファイル名の暗号化 | 不可(ファイル名だけは見えてしまう) | 不可(※7z形式にすればファイル名も暗号化可能) |
セキュリティ強度の違い
表を見ても分かる通り、セキュリティ強度には天と地ほどの差があります。
ZipCryptoは、例えるなら「簡易的な南京錠」のようなものです。
ピッキングツール(解析ソフト)を使えば、素人でも比較的簡単に鍵を開けることができてしまいます。
一方のAES-256は、「銀行の大金庫」のようなものです。
物理的に破壊することも、最新の暗号解読技術で突破することも、現代の技術では実質的に不可能です。
互換性と解凍時の注意点
セキュリティ面では圧倒的にAES-256が優れていますが、唯一の弱点が「互換性」です。
Windowsの標準機能(エクスプローラー)は、伝統的にZipCryptoにしか対応していません。
そのため、AES-256で暗号化されたZIPファイルをWindows標準機能で解凍しようとすると、「ファイルが壊れています」といったエラーが表示されたり、パスワードの入力画面すら表示されずに開けなかったりするトラブルが発生します。
このトラブルを解決するには、受信側(相手)のパソコンに「7-Zip」や「WinRAR」といった、AES-256に対応した無料の圧縮・解凍ソフトをインストールしてもらう必要があります。
取引先にAES-256のZIPファイルを送る際は、相手が解凍ソフトを持っているか、あるいはインストール可能かを確認しておくことが重要です。
ZIP暗号化のセキュリティ強度と危険性
「本当にZipCryptoはそんなに簡単に破られてしまうの?」と疑問に思う方もいるかもしれません。
ここでは、ZipCryptoが抱える技術的な脆弱性と、パスワード付きZIPファイル全般が持つ危険性について、もう少し詳しく掘り下げてみましょう。
ZipCryptoが破られる「既知平文攻撃」の脅威
ZipCryptoの最大の弱点は、「既知平文(きちへいぶん)攻撃」と呼ばれる手法に対して極めて脆弱である点です。
既知平文攻撃とは、暗号化されたZIPファイルの中に含まれるファイルのうち、1つだけでも「暗号化されていない元のファイル(平文)」が手元にある場合、それを手がかりにして暗号鍵を特定し、ZIPファイル全体のパスワードを数秒から数分で割り出してしまう攻撃手法です。
例えば、あなたがWebサイトからダウンロードした誰でも入手できるPDFファイルと、社外秘のExcelファイルを一緒にZipCryptoで圧縮してパスワードをかけたとします。
攻撃者がそのPDFファイルのオリジナルを入手できれば、専用の無料ツールを使うことで、あっという間に社外秘のExcelファイルも盗み見られてしまうのです。
この攻撃は、パスワードをどれだけ長く、複雑(英数字や記号の組み合わせ)に設定していても防ぐことができません。
これが、セキュリティ専門家が「ZipCryptoは絶対に使うべきではない」と警告する最大の理由です。

パスワード総当たり攻撃とロック機能の不在
もう1つの大きな危険性は、ZIPファイルには「アカウントロック機能」がないことです。
スマートフォンやWebサービスでは、パスワードの入力を何度も間違えると「15分間ロックされます」といった制限がかかりますよね。
しかし、ZIPファイルにはそのような制限が一切ありません。
攻撃者は、コンピューターを使って「1秒間に数万回〜数百万回」という猛スピードで、ありとあらゆるパスワードの組み合わせを試し続けることができます。
これを「総当たり攻撃(ブルートフォース攻撃)」と呼びます。
もしZipCryptoを使用しており、さらにパスワードが「1234」や「password」、あるいは「会社のローマ字+設立年」といった単純なものであった場合、数秒もかからずにパスワードが突破されてしまいます。
ZIPファイルの暗号化方式の確認方法
受け取ったパスワード付きZIPファイルが、安全な「AES-256」なのか、危険な「ZipCrypto」なのかは、見た目だけでは判断できません。
ここでは、最も確実で簡単な確認方法を解説します。
7-Zipを使用した確認手順
最も確実な方法は、無料の高性能圧縮・解凍ソフト「7-Zip」を使用する方法です。
以下の手順で、ZIPファイルの暗号化方式を簡単に調べることができます。
1. 確認したいZIPファイルを右クリックし、メニューから「7-Zip」>「開く」を選択します。
2. 7-Zipのウィンドウが開き、ZIPファイルの中身が表示されます。
3. 上部のメニューバー、または表示項目にある「詳細」を確認するか、ファイルを右クリックして「プロパティ」を開きます。
4. プロパティ内の「暗号化方式」または「メソッド(Method)」という項目を確認します。
- 「ZipCrypto」 と表示されている場合:古い方式で暗号化されています(セキュリティ強度は低いです)。
- 「AES-256」 と表示されている場合:強力な方式で暗号化されています(セキュリティ強度は極めて高いです)。
この方法を使えば、ファイルを開く(解凍する)前に、その安全性を一目で確認することができます。

エクスプローラーやその他の確認手段
7-Zipなどの外部ソフトがインストールされていないパソコンの場合、Windowsの標準機能(エクスプローラー)だけでは詳細な暗号化方式を直接確認することは困難です。
ただし、1つの判断基準として「Windows標準のエクスプローラーでダブルクリックして、パスワードを入力したらそのまま開けた」という場合は、ほぼ間違いなく「ZipCrypto」で暗号化されています。
なぜなら、前述の通りWindowsの標準機能はAES-256に対応していないため、もしAES-256であればエラーが出るか、解凍できないからです。
「特別なソフトを入れずに開けた=セキュリティが弱いZipCryptoである」と覚えておくと良いでしょう。
安全にファイルを共有するための推奨される暗号化手順
大切なデータを安全に相手に届けるために、私たちはどのような対策を取ればよいのでしょうか。
ここでは、具体的な推奨手順を解説します。
7-ZipでAES-256暗号化ZIPを作成する方法
ファイルを暗号化して送る際は、Windows標準機能ではなく、対応ソフトを使って「AES-256」を指定して圧縮しましょう。
ここでは定番ソフト「7-Zip」を使った手順を説明します。
1. 暗号化したいファイルやフォルダーを右クリックし、「7-Zip」>「書庫に追加」を選択します。
2. 設定画面が開くので、以下のように設定を変更します。
- 書庫形式:「ZIP」を選択します。
- 暗号化方式:デフォルトの「ZipCrypto」から 「AES-256」 に変更します。
- パスワードの入力:複雑なパスワード(英数字・記号を混ぜた10桁以上)を2回入力します。
3. 右下の「OK」ボタンをクリックすると、AES-256で強固に暗号化されたZIPファイルが作成されます。
この手順で作成したZIPファイルであれば、万が一ファイルが第三者に渡ってしまっても、中身を解読される心配はほぼありません。
クラウドストレージなど代替手段の検討
近年、メールにパスワード付きZIPファイルを添付し、別のメールでパスワードを送る運用(通称:PPAP)は、セキュリティ上の効果が薄いだけでなく、マルウェア感染の温床になるとして政府や多くの大企業で廃止されています。
より安全にファイルを共有したい場合は、以下のようなメール以外の手段への移行を検討しましょう。
- クラウドストレージ(OneDrive、Google ドライブなど):ファイルをクラウド上に保存し、特定の相手にだけアクセス権限や有効期限付きのリンクを共有する方法です。誤送信した際にも、即座に共有リンクを無効化できるため、極めて安全です。
- ビジネスチャット(Teams、Slackなど):あらかじめ認証されたメンバーしかいない安全なチャットスペース上でファイルを直接送受信する方法です。
メールでのZIP送信はあくまで一時的な手段とし、中長期的にはこうした「仕組みで守る」安全な共有方法を取り入れていくことが、現代のビジネスセキュリティにおいて最も推奨されています。
まとめ
パスワード付きZIPファイルの暗号化方式である「ZipCrypto」と「AES-256」の違いについて解説しました。
最後に、この記事の重要なポイントを振り返りましょう。
- ZipCryptoは、Windows標準機能で開ける互換性がありますが、セキュリティ強度は極めて低く、既知平文攻撃などで簡単に破られてしまいます。
- AES-256は、解読が実質不可能なほど強固な暗号化方式ですが、解凍には7-Zipなどの対応ソフトが必要です。
- 暗号化方式を確認するには、7-Zipのプロパティ画面から「暗号化方式(メソッド)」の項目をチェックするのが最も確実です。
- 安全にファイルを送るためには、7-Zipなどのツールを使ってAES-256を指定して圧縮するか、クラウドストレージの共有リンクを活用しましょう。
「パスワードをかけているから安心」と過信せず、中身の暗号化方式までしっかりと意識することが、あなたの大切な情報資産を守る第一歩になります。
まずは、次回ファイルを送る際に、暗号化方式の設定を「AES-256」に変更することから始めてみてはいかがでしょうか。
信頼性の高いファイル共有方法を身につけ、安全で快適なデジタルワークを実現しましょう。

